葉っぱだより

シナノキNo.100-101 シナノキ

07/11 Oct. 2010(28 Jun.2013加筆)

シナノキ科シナノキ属(Tiliaceae Tilia)
和名:シナノキ
学名:Tilia japonica
アイヌ語名:ニペシニ(1)

和名の由来

和名の由来、はっきりとはわからないようです。
牧野(1965)では、次のように書いてありました。「皮がシナシナすることから、またはその皮が白いのでシロから来たなどというが、元来シナは『結ぶ、しばる、くくる』という意味のアイヌ語からきたものである」(2)
が、辻井先生(1995)はこれ対して真っ向から「間違いらしい」と述べています。というのは、知里真志保によると、アイヌ語では「内皮またはその繊維をnipesあるいはsi-nipesと呼び、ニは木、ペシはもぎ取った裂片を指し、さらにシは本当のという意味」なので、シナの語源らしいことばは含まれないのでは、という考えからです(3)。ただ、辻井先生も由来は謎としています。
一方、上原(1965)は佐渡の民謡のことを書いていて、同島海府地方ではシナノキの糸で織ったユモジをハダソといって「海府の姉達やしなのはだそ(ハダソ)で、すね(脛)こくる(強くこする)」と唄い、「昔なじみとしなのき枝はどこで会うてもしなしなと」と続くとあります(4)。
これが語源とは書いてありませんが、シナノキの内皮で糸や布をつくるのは東北地方でも古くからやられてきたことのようですので、この「しなしな」説、支持したいなぁという気持ちです。

それから、「信濃」はもともと「科野(しなの)」と書かれていて、「科(しな)」はシナノキを表すのだそうです。「科野」は「シナノキが生えている野」の意味だということです(5)。

学名の由来

属名Tiliaについては、葉っぱだよりNo.98-99「オオバボダイジュ」をご覧ください。

japonica:日本の(2)

アイヌ語名の由来

葉っぱだよりNo.98-99「オオバボダイジュ」をご覧ください。

シナノキの花

7月も中旬を過ぎた頃になってようやく花が咲きます。このころに札幌の中の島通りを通るとシナノキの香りが漂います。暗くなってから、車の窓を全開にして走ると、その香りが車の中にまで広がります。

シナノキの花

□シナノキの伝説二題

ギーゼラ・プロイショフの「木の癒し」という本からシナノキにまつわるヨーロッパの伝説を二つ紹介します。

○ジークフリートの伝説
ゲルマンの伝説に名高い英雄ジークフリートが、竜と闘ったのもこの木 の下でした。竜を討ち取ったあと、ジークフリートは、不死の身体になるためにその血を浴び ます。ところがちょうどその瞬間、ボダイジュの葉が一葉、彼の肩に落ちました。 そのため、そこにだけ竜の血がかかりませんでした。宿敵ハーゲンにそこを槍で 突かれ、英雄はついにたおれます。

○ギリシア神話から
あるとき、神々は人間を試そうとして旅人に変装して付をまわり、泊めてほしい と頼みました。ところが迎えいれたのは、ピレモンとバウキスという貧しい百姓夫 婦だけでした。
粗末な食事のあと、神々はこのふたりにだけ、さしせまった洪水のことを知らせ ました。ふたりは手に手をとって逃げだし、土砂降りの中をやっとのことで山に登 り、ある廃墟に逃げこみました。
ここでふたりは、疲れ果てて眠りこんでしまいました。 目が覚めると、自分たちの付けすっぽり水の中に沈んでいました。款われたと 知って、ふたりは深く感謝し、そのまま古い神殿だった廃墟に住んで、神々に仕 えました。
ふたりの切なる願いは、このままずっとここにいたい、死によって離ればなれに なりたくない、ということでした。
神々は愛し合うふたりのこの望みを叶えてやりました。死後、バウキスはボダイ ジュになり、ピレモンはオークになったのです。何百年もの問、ふたりはしっかりと 絡みあいながら神殿の屋根を支えたといいます。

□雑談-その1

ジークフリートの伝説、「ニーベルンゲンの歌」ですね。1993年に初めてドイツに行って、帰ってきてから読んだ覚えがあります(詳しく知りたい方、wikipediaでどうぞ)。すっかり忘れてしまいましたが…。
この伝説に基づいてリヒャルト・ワーグナーが「ニーベルングの指輪」をつくったんでしたね。当然、全編聞いたことなどありませんが、「ワルキューレの騎行」はフランシス・コッポラの「地獄の黙示録」のオープニングのシーンで使われたので知っています。映画はよく理解できませんでしたが…。

□雑談-その2

2002年、ロイヤル・オペラ・ハウス (Royal Opera House) の隣にあるコヴェント・ガーデン・マーケットに行ったときのことです。吹き抜けになっている地下の一角で、団員の若手の人たちが歌や演奏をして、ちょっとしたカンパを集めるということをやっていました。そのとき初めて生のアリアを聴きました。ことばはわからないけれど、一度生でオペラを見てみたいものだと思いました。
数年前に東京で「ニーベルングの指輪」が上演されると聞いたとき、行ってみたいものだと奥さんと話したのですが、通しの公演で確か15万円ほど。これは清水の舞台だねぇ、なんていいながら、行けませんでしたけど…。

〔参考文献〕--------------------------------------------------

(1)川村正一 編,2013,新編 アイヌ語の動植物探集,253pp,文泉堂
(2)牧野富太郎,1961,牧野新日本植物図鑑,1060pp,北隆館
(3)辻井達一,1995,日本の樹木 都市化社会の生態誌,296pp,中公新書,中央公論社
(4)上原敬二,1961,樹木大図説2,1203pp,有明書房
(5)堀田満,1995,シナノキ科,週刊 朝日百科植物の世界76,7-117-~7-123,朝日新聞社
(6)ギーゼラ・プロイショフ(Gisela Preuschoff),小川捷子(おがわしょうこ)訳,2000,木の癒 し,111-112,235pp,飛鳥新社