葉っぱだより
No.120-122 カツラ
29 Jan.-01/02 Feb. 2011
カツラ科カツラ属(CERCIDIPHYLLACAE Cercidiphyllum)
和名:カツラ
学名:Cercidiphyllum japonicum
アイヌ語名:ランコ(ranko)(1)
和名の由来
和名のカツラ、「香る木」に由来するという説がもっぱらです。
・大槻文彦:大言海:『かつハ、香出(カヅ)ナラム』
・新井白石:東雅:『香りあるをもて、かくしるしたらむ』(ここまで(3))
・林甕臣(はやし みかおみ):『香ったはり木』(4)
牧野(2)も「カツラのカツは香出(カヅ)であろうと言われる」と言いつつ、そのあとに「そうだとすると香気のある木でなければならない。この樹に香りがあるという人もいるがどうであろうか」と続けています。ちょっと牧野先生ともあろうお方が、「あらら」という気がします。
カツラは紅葉から落葉にかけての時期に葉が香ります。川尻(5)は「上質の茶のような醤油のような、カルメラのような、または縁日の綿あめ屋さんのような香りがします」と表現しています。
葉に含まれる「マルトール」という成分が香りの元だそうです。また、川尻は真夏の一時期にも香ると書いていますが、私はまだ体験したことがないので、今年の夏は気をつけてみようと思います。
「マルトール」については、以下の論文がありました。
カツラの葉のマルトールと糖成分の研究
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003651436
学名の由来
Cercidiphyllum:n.<属名:Cercis(ジャケツイバラ科のハナズオウ属)+phyllon(葉)。葉の形がハナズオウに似ているため(2)。
※以前はハナズオウはマメ科とされていましたが、分類が変わったようです。
ハハナズオウの葉の写真
http://www.alpine-plants-jp.com/himitunohanazono/hanazuou_himitu_3.htm
フラボンの山野草と高山植物の世界
http://www.alpine-plants-jp.com/index.htm
ナズオウ、なじみがないのでネットで拾いました。
japonicum:日本の(2)です。
アイヌ語の由来
アイヌ語のランコ(ranko)の語源、わかりませんでした。
葉の形態
カツラの葉っぱ、ハート形をしたものと先がやや尖ったものがあること、わかりました?
意識してとってきたのではないのですが、図鑑には次のように書いてありました(6)。
○単葉
○長さ2~2.5cmの葉柄と長さ3~7cmの葉身
○鈍鋸歯
○早めに落ちる托葉をもつ
●長枝につく葉
楕円形・羽状脈・対生
●短枝につく葉
心形・掌状脈・1枚だけ・葉先はやや尖る
古い枝では、短枝に1枚ずつついた葉が、あたかも対生しているように見える
とは書いてみたものの、自分が長枝から取ってきたのか短枝から取ってきたのか、定かではありません。今年は注意して見ます。
仲間
カツラは1科1属、白亜紀から系統が続いているというものの、仲間は決して多くありません。
□おまけ
〔カツラ物語〕
昨年の春、日中韓三ヵ国環境相会議が札幌で開かれました。そのときに支笏湖畔で記念植樹をするということで、何を植えたらいいかということでアドバイスをしました(環境省にではなく、Y種苗にですが)。
そのとき書いた物語です。後日、朝日新聞の記事になったときにほぼこの内容のことが書いてあったので、記者発表もこれに基づいてしたのだろうなとひとりほくそ笑んでいました。
雑談-その1
〔樹木の寿命〕
「木の寿命はどれくらい?」と聞かれることがあります。
おおざっぱなことはわかっているようですが、なかなか樹種別に平均的に何年といえるような数字は少ないようです。というのも、自然に倒れてしまうような場合には幹が腐ったり、根元に空洞ができたりしているので年輪を読むことができないので、巨木の樹齢を調べることが難しいのでしょう。
ヤナギ類やシラカンバなどは比較的寿命が短いといわれています。それでも50~80年くらい。人間の寿命に比べれば決して短いわけではなりません。植栽計画を打ち合わせているときに、これらの樹種を使用したいというと「いや、寿命が短いから‥」とおっしゃる方もいました。そんなときには、心の中で「大丈夫、少なくともその木が倒れるときまであなたはおつきあいできないから‥」なんてつぶやいています。
前置きが長くなりました。カツラは長生きする樹種です。添付ファイルに天然林での主な樹種の寿命に関する表を載せました。カツラはアカエゾマツやミズナラよりも長寿命なのではないかと勝手に思っています。この樹種は萌芽しやすい性質を持っているので、幹が倒れてもまた根元から幹を伸ばします。これが一度ならず、二度・三度繰り返していると思われるものと何度も出会っているからです。円山の原始林にあるカツラは300~500年くらいといってもよいのではと思うものがゴロゴロしています。遊歩道沿いにあるものなどは子どもたちの格好の遊び場になっています。
おまけ 「北海道の木 平均寿命」(PDFファイルです)
雑談-その2
カツラ、私の好きな木です。子供も「桂介」と名付けました。女の子だったら「桂(かつら)」または「桂(けい)」だったかもしれません。
〔参考文献〕--------------------------------------------------
(1)福岡イト子,1993,アイヌと植物 旭川叢書第21巻,267pp,旭川振興公社
(2)牧野富太郎,1961,牧野新日本植物図鑑,1060pp,北隆館
(3)上原敬二,1961,樹木大図説1,659,1309pp,有明書房
(4)深津 正・小林義雄,1993,木の名の由来,214-216,281pp,東書選書
(5)川尻秀樹,2008,続「読む」植物図鑑 樹木・野草から森の生活文化ま で,504pp,全国林業改良普及協会
(6)戸部博,1996,カツラ科,週刊朝日百科植物の世界,90,8-186,朝日新聞社