ARCS TECHNICAL REPORT No.1-4


植栽後の保育管理

 維持管理と保育管理

 どんなものでもつくると維持管理という作業が必要になってきます。たとえば橋をつくったとしましょう。何年かすると高欄のペンキが剥げてきたり、舗装面が痛んだりします。その都度、あるいは定期的に補修する必要がでてきます。一般にものをつくったときには、完成時点が最も機能的に優れ、その機能を維持するために管理作業をしていくことになります。維持管理ということばを用います。

 木も植えたら植えっぱなしというわけにはいきません。木の場合、植えた直後いわば植栽工事の完成時点ではけっして機能を発揮することはありません。木を植えてから何年後かあるいは何十年後かに機能を発揮します。ですから木を取り扱うときには、ほかのもののように維持管理ということばは何かそぐわないものを感じます。木を取り扱う場合、植えたときが完成ではなく、それから育てていくという作業が必要になります。木を育てながらの管理ということで、保育管理ということばを用います。かつては撫育ということばを使ったそうです。字面からも昔の人たちがどのようにして木とつきあってきたかが偲ばれます。現在は木の管理にも維持管理ということばが使われ、保育という考え方がなくなってきたように思います。木を植えることが完成ではなく、木を植えることが始まりです。そして保育管理をしていくことによって木を育てていかなければならないのだということを肝に銘じてください。

支柱は何のために
すべての木に支柱は必要か
支柱はいつとるか
下草刈り
剪定
間引き


支柱は何のために

木を植えるとたいがい支柱を取り付けます。支柱はなぜ必要なのでしょうか。

 木を植えるときには苗畑から木を掘って持ってきます。このとき持ち運びしやすいようにある程度根を切って持ってきます。(図1)ですから木の大きさと根の大きさのバランスが崩れた状態で持ってくることになるのです。樹高2メートル程度の木でも根は横に伸びています。それを根鉢の大きさで直径30センチメートル程度に切りつめてくるわけですから、木の大きさに比べ根はかなり小さくなることになります。そのまま植えても木の大きさの割に根が小さいためひっくり返ってしまいます。根が十分に張って上体を支えられるようになるまでの間、支えのため支柱を添えてやります。あくまで支柱は仮のものだということを忘れないでください。いつまでも支柱に支えられているわけではないのです。

図1 移植のときの根の掘り取りの様子

 また木を支えるという意味から疑問に思えるような支柱の付け方をしている例もみられます。添え木付き二脚鳥居支柱(図2)というのは植える木が3から4メートル程度の大きさの場合につけるのですが、木に対してどの方向から力が加わるかを想定してつけます。このことを全く考えないで、習慣だからつけているような例もみられます。(写真1)本来斜面上部からの加重に対して木を守るために支柱をすべきなのに、むしろ支柱が木にもたれかかっているような状態になっています。どの方向から力が加わるかということは、斜面だけではなく、風の強い場所でも考えなければならないことです。

図2 添え木付き二脚鳥居支柱の模式図
写真1 誤った支柱の付け方

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すべての木に支柱は必要か

 木を植えたときに樹木を支えるために支柱をつけるといいましたが、すべての場合に必要なのでしょうか。

 植える木の大きさによっては不要の場合もあります。たとえば山林で木を植えるときには支柱はしません。それは木の大きさと根のバランスがとれた大きさのものを植えるからです。

 どんな場合にでも支柱が必要と考えるのは間違いです。かえって支柱があるばかりに木の成長が阻害されることさえあるのです。雪の多い地方で小さなサイズの木を植えて、それに支柱をつけます。すると支柱と木とを結束した部分に雪の重みがかかり、そこから木が折れてしまいます。(図3)支柱をしたことがかえってマイナスになってしまいます。雪の多い地方で木を植えるときには、大きな木を植えて最深積雪深よりも上で結束するようにしないと幹折れが生じやすくなります。

図3 支柱をしたための雪圧害の模式図

 小さな木を植えるときには支柱をせずに、「斜め植え」といって最初から木を斜めに植えて、雪の重みでしなって折れないようにします。(図4)木は春になって雪が解けると上に伸びていきます。ただし、あまり柔軟性のない苗木を植えたときには雪の重みで倒伏したままとなりますから、雪起こしや根踏みといった作業が必要になります。

図4 斜め植の考え方と方法

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支柱はいつとるか

 支柱は仮のものですから、木の育ち具合をみてはずしたやらなければなりません。植えてから二年ほどしたら、まず結束しているシュロ縄をはずしてみてください。そして木を押してみます。十分な弾力があって跳ね返ってくるようであれば、その木は根付いています。押して跳ね返りがなく、そのまま倒れていくようであれば、まだ十分に根付いていません。このようにして根付いたかどうかを確認します。その結果で支柱をはずします。支柱をはずさないことになったとしても、木は成長して太ってきていますから、シュロ縄の結束をほどいてもう一度締め直す必要があります。そうしないとシュロ縄が幹に食い込んでしまい、そこから折れやすくなります。(写真2) 

 このような支柱の管理は一般におざなりにされていて、植えたときのままの状態にしている例が多くみられます。木の成長にあわせて支柱管理をしていかないと、シュロ縄どころか支柱の横木まで幹に食い込むことさえあります。(写真3)

写真2 樹木へのシュロ縄の食い込み痕 写真3 樹木に食い込んだ支柱の横木

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下草刈り

 木が育つのを助けるために、木の周りの草を刈ります。これは主に小さな苗木が草丈よりも低いときに行われます。苗木が草丈よりも低いと、木は草の陰に隠れてしまい、日が当たらずに光合成をする力が弱くなるため育ちません。草に負けるということばを使いますが、周りの草との競合に競い負けてしまうのです。このために下草刈りを行います。しかし、せっかく草を刈ろうとしても木まで傷つけては何にもなりません。鎌を振り回したり、ブラッシュカッターを振り回したりすると、ちょとした弾みで木を傷つけたり切ったりしてしいます。

 また公園などでは芝生の草刈りが行われます。木を傷つけたり切ったりしないようにナイロン性のロープを使ったブラッシュカッターが使われることが多いようです。しかし実際にはナイロンロープは木を傷つけてしまいます。何回も繰り返しているうちに根元の樹皮がぐるりとはがれてしまい、ついには枯れてしまった木も多くみられます。枯れないまでもそこから腐朽菌が入り込み衰弱していく例も多々あります。(写真4)

写真4 下草刈りのときに傷つけられた樹木の根元

 木の周りの草刈りは面倒でも手刈りで丁寧に刈ってやる必要があります。

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剪定

 剪定は樹形を整えたり、根の状態とのバランスを整えるために枝などを切る作業です。必ずしも必要な作業というわけではないのですが、街路樹のように根や枝の成長が制限されている場所では、木の成長に伴って必要になってきます。

 樹形を整えるという意味では、枯れ枝の除去も剪定作業のうちに入ります。街路樹などをみると、植栽初期のストレスから枝先が枯れているものがあります。公園などでもみらます。これは見た目にもいいものではありません。いかにも管理していません、といっているようです。最低限枯れ枝は剪定してしまいたいものです。また剪定というと闇雲に枝を切ってしまう例が多くみられます。街路樹などは本来その木が持つ樹形がほとんどわからないくらいに剪定してしまっています。強剪定といっていますが、これも考えものです。せめてその木の本来持つ樹形がわかる程度にしたいものです。

 剪定は樹種によってやり方を変えなければなりません。幹になる部分を剪定しても上伸枝がでて幹になっていくような性質のものもあれば、幹になる部分を切ってしまうと樹形がこじれてしまうものなど様々です。

 よく「桜切るバカ、梅切らぬバカ」などといわれますが、街路樹にエゾヤマザクラを植え剪定してしまった例などもみられます。剪定した跡を防腐剤などできちんと処理していれば問題はないと思いますが、それもどうしたことやら…。

 それぞれの樹種の性格を知っておく必要があります。

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間引き

 造林地やいわゆる環境林などのように比較的に密に植栽した林の場合必要になる作業です。

  さんさんと降り注ぐ太陽光は木にとって大きなエネルギーです。ある一定面積にたくさんの個体がある場合、それらは一定量の太陽エネルギーをめぐって競争を始めます。競争に勝ち残った個体だけが大きく育つことができ、競争に敗れた個体は上層木(勝ち残って大きくなった木)の下でかろうじて生存することになります。甚だしい場合には枯れてしまいます。と、このように競争原理が働く場合にはわざわざ人手をかけることはないのですが、植栽した木というのは思いのほか頑張ります。なかなか優劣がつかず、どれもがひょろひょろとした樹形になっていきます。また林床(林の最下層の部分)は薄暗く草も生えない状態になります。100年・200年という単位でみていけば自然間引きは当然起こるのでしょうが、20年程度の時間単位でみるとまだ優劣はつきがたいことが多いようです。

  林をつくる目的によって間引きの目的は変わります。林業では、本来育てる目的ではない木や材として出してもお金にならない木を切ることを除伐、間引いた木を材として利用しお金になる場合を間伐と呼び変えています。近年は間伐材が売れないために、除伐も間伐もあまり変わらなくなってきていますが…。林業の場合は、除伐や間伐をすることによって木を太らせることが目的となります。
  これに対して環境林などの場合には目的は異なるようです。私が現在取り組んでいるものの中には、数種類の広葉樹の人工林を自然林のように複層化し、多様性のある林床をつくりだすための間引きというものもあります。また道路防雪林などの場合には、林の防雪効果を維持するために下枝の枯れ上がり防止を目的に間引きが考えられています。

  いずれにしても、木を植えて林にしたいという場合、ほっといていい、ということにはならないようです。

 今回は主に木の保育管理をしていくときの注意点を述べてきました。木はあくまでも生き物です。そのことをくれぐれも、お忘れないように…。

 次回は木を植える計画を立てるときに考えなければならないことについて書きたいと思っています。

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