農と工の違い

山下惣一

最初、鍬で田んぼを耕した。それが鋤になり、耕耘機になり、トラクターになる。ずいぶんと能率はあがるようになった。しかし、いくらトラクターだからといって、米を生産するわけではない。あくまで田んぼを耕す道具に過ぎない。本質的には鍬と同じなのだ。大型の鍬に過ぎない。

ところが工業のほうでは、大型の新しい性能の設備をすれば、機会が商品そのものを生み出す。地下足袋を1日100足製造する設備は500足にも、1000足にもなる。

農業の機械化と工業のそれとは、そこに根本的な違いがある。そのからくりに私たちは長い間気がつかなかった。そして、今でも気がつかないものが多い。

1993/05/30・2003/09/20
山下惣一(やました そういち),1992,日本の"村"再考 くたばれ近代化農政,208p.(初版,1975,ダイヤモンド社),現代教養文庫,社会思想社