善意と悪意

塩野七生

セヴェルスによる軍団兵の優遇策もまた、善意が必ずしも良き結果につながらないという、古今東西いやというほど見いだすことのできる人間社会の真実の例証であると思う。いや、もしかしたら人類の歴史は、悪意とも言える冷徹さで実行した場合の成功例と、善意あふれる動機ではじめられたことの失敗例で、おおかた埋まっていると言ってもよいかもしれない。善意が有効であるのは、即座に効果の表れる、例えば慈善、のようなことに限るのではないか、と。歴史に親しめば親しむほどメランコリーになるのも、人間性の現実から眼をそむけないかぎりはやむをえないと思ったりもする。

2003/05/24
塩野七生(しおの ななみ),2002,終わりの始まり ローマ人の物語11,326p,新潮社