誰のために植林するのか

ボリジギン・セルゲレン

90年代初めから、数多くの日本のボランティア団体が、郷里の内モンゴルで植林に取り組んでくれている。その技術と成果(経験)は中国砂漠化防止にも大きな刺激を与えている。植林は緑を回復し、砂の動きを止める。住む人々の生活が豊かするはずのものだ。しかし、理念と現実との間には距離がある。

多くの団体は政府や民間の補助で活動を維持している。補助を継続的に受けるには、植林の成果が早く目に見えること、その規模が大きいことが求められる。

苗木にはヤナギやポプラなど喬木が選ばれることが多い。1年に1メートル、7年で10メートル、10年もたてば15メートルにも伸びて、大きな葉を広げるからだ。

成果の判断には苗木の活着率も重要だ。このために、植林用地は比較的地下水が豊富な牧草地が好まれる。平均的な活着率は50%も難しいが、牧草地であれば、70〜80%の高い活着率が期待できるからだ。

補助を出す側の判断には、植林の規模も重要な要素になる。このために、何百ヘクタールもの牧草地を柵で囲み、何十万本もの木を植えるといった事業が進められている。

しかし、牧草地にポプラのような喬木を群植すれば、地下水位が低下し、植生バランスが失われる恐れがある。その一方で、植林予定地は囲い込まれ、住民は従来の牧畜生活を続けることができなくなる。

砂漠緑化の被害を最も受けているのは、現地に住む遊牧民だ。彼らは日本からの「緑の使者」を歓迎し、期待している。しかし、広大な牧草地を柵で囲んで家畜を排除しようとすることをはじめとして、植林活動の計画や理念には、彼らには理解できないことも多い。

砂漠化防止は現地に住む人々を主役とし、その生活と密着して、自立的な植林を助けるものであるべきだ。砂地の植生回復には。装置の育成や潅木の植林を含めた多様な手法を用いるべきだ。その管理と育成に、林と同時に人も育てていかなければならない。

目に見える変化や成果は大切だが、最も重要なことは、現地の人々をこの活動に取り込み彼らの生活を考えながら事業を進めていくことだと思う。具体的には、例えば規模は小さくても、熱心な人々に苗木を提供し、翌年にはその成果に応じて管理費を提供するといった支援の方法もある。

(全文掲載)
当時,東京大学大学院生・政治専攻/現在,内モンゴル沙漠化防止植林の会代表
2003/05/24
ボリジギン・セルゲレン(B.Sergelen),2003/05/24,朝日新聞朝刊(札幌版)