葉っぱだより

No.134 キタコブシ おまけ

11 Apr. 2011

日中韓親善のためのキタコブシ物語

■ポイント
①北海道や隣接する東北地方に自生地が限られた種類であること
②地域住民の生活に関係深い種類であること
③被子植物の進化の初期段階から続く種類であること

■説明(物語)
キタコブシ(Magnolia praecocissima var. borealis)はモクレン科モクレン属の落葉広葉樹高木で、日本北部の日本海側や北海道に自生している。コブシ(Magnolia praecocissima)の北方系の変種とされています。

北海道の山野では4月下旬~5月上旬に、大きな白い花びらを持つ花が咲きます。葉が開く前に、そしてどの木よりも早く花が咲くので、北海道では「マンサク」と呼ばれることもあります。「まず咲く」という意味と、さらに豊年の「満作」も掛けているのです。
農村では、この花を「こよみ」代わりにしていました。地方によっては、この花が咲くのを見て、苗代をつくったりタネを播いたりしました。北海道の春を告げる木です。

北海道の先住民族アイヌの人たちは、とても良い香りがするこの木の樹皮や枝を煎じてお茶代わりに飲み、また風邪をひいたときにも服用していました。

キタコブシを含むモクレン科は、被子植物の進化の過程で最も早く出現した種類のひとつと考えられています。一説には白亜紀(一億年前前後)まで遡れるとか。キタコブシそのものは、その後の進化の過程で枝分かれした種類なのでしょうが、非常に長い歴史を持つ一門の出であるといえます。

日中韓環境相会議の記念植樹でキタコブシを植えて、三国の関係がモクレン科の木と同じように長い歴史を培っていくことを願います。同時に、成長したそれらの木々がいつまでも私たち北海道民に春を告げてくれることを…。

■参考文献
(1)朝日新聞社編,1968,北方植物園,104~106,330pp,朝日新聞社
(2)東浩司,2003,モクレン科の分類・系統進化と生物地理 : 隔離分布の起源,日本植物分類学会誌 Bunrui, 3(2), 123-140
(3)植田邦彦,1996,モクレン科,週刊朝日百科 植物の世界,100,9-108~9-120,朝日新聞社
(4)辻井達一,1995,日本の樹木 都市化社会の生態誌,151~154,296pp,中公新書,中央公論社
(5)福岡イト子,1993,アイヌと植物,旭川叢書第21巻,140~141,267pp,旭川振興公社