葉っぱだより

Carpinus cordataNo.188 サワシバ

11 Jul. 2012

カバノキ科シデ属(BETULACEAE Carpinus)
和名:サワシバ
学名:Carpinus cordata
アイヌ語名:パセアニ・パセニ・ヤルカバル等(1)

○和名の由来
牧野(2)はあっさりと「山あいの谷間にはえるからである」としています。サワは説明できるけれどもシバは説明がつきません。上原(3)によると、和名の異名にシバシデ、サワシデなどがあります。このあたりが混ざり合って「サワシバ」になったのかもしれません。
ちなみに「シデ」の由来は、葉っぱだより-42号(2009年11月)に書いたのですが、ずいぶん前の話なのでここに再掲します。
上原(3)は次のように説明しています。
シデは「四手」のことで、これは紙を深く三筋に切り分けてそのうちの中央の紙片を残して両側を折り曲げて垂らし玉串にかけるものだそうです。雄花穂の形がこれに似ていることに由来する。

牧野(2)は『シデは四手で、垂れ下がった花穂をたとえたものである』としています。

上原の説明、わかりにくいですね。
辻井先生はこれをわかりやすく書いています。そのまま引用します。『上原敬二博士によると、…。これは玉串のほかに注連(しめ)にも垂れ下げるようで、昔は木綿を用い、今は紙を切って用いるから紙垂と書いてシデとよませるそうな。(4)』
辻井先生は牧野説のほうが腑に落ちると述べています。

○学名の由来(属名は再掲)
Carpinus:f.<l. Carpinus Betulusの古代ラテン名。語源はケルト語のcar(木)+pin(頭)からともいう(2)。
上原説(3)では、「Carpinusはこの属の旧ラテン名といってしまえばそれまでだがこれはケルト語Car(木)とpen、pix(頸)の合字、この材を牛のクビキに用いたのによるという」

cordata<cordatus:心臓形の(普通のハート形の逆向きのもの)(2)
「心臓形の」ということなので、いろいろな樹木の種小名になっているかと思えば意外に少なく、フユボダイジュ(Tilia cordata)ぐらいしかヒットしませんでした。草本ではドクダミ(Houttuynia cordata)が身近なところにあるものですね。

○アイヌ語の由来
パセニはサワシバのほかアカシデ・ナナカマドにも用いられています。「重い木」とか。ヤルカバル(yar kabar?)は「樹皮が薄い」とあります(1)。

〔参考文献〕--------------------------------------------------
(1)川村正一 編,2005,アイヌ語の動植物探集,268pp,文泉堂
(2)牧野富太郎,1961,牧野新日本植物図鑑,1060pp,北隆館
(3)上原敬二,1961,樹木大図説1,1309pp,有明書房
(4)辻井達一,1995,日本の樹木 都市化社会の生態誌,296pp,中公新書,中央公論社