葉っぱだより

Betula maximowiczianaNo.43/44 ウダイカンバ

07/14 Nov. 2009(29/30 Mar. 2013 加筆)

カバノキ科カバノキ属(BETULACEAE Betula)
和名:ウダイカンバ
学名:Betula maximowicziana
アイヌ語名:イロンネタッネ・カリンバタッ・シタッニ等(1)

和名の由来

和名は、鵜松明樺(ウタイマツカンバ)からの転訛とのこと(3)
樹皮に油脂分が多くよく燃えることから、鵜飼いのときに使われたようです(4)。

深津(1985)はちょっと違う説を展開しています。戦国時代にすでに「雨松明(うだいまつ)という名称が使われていたことから、「雨松明」説を支持したいということでした。(7)

学名の由来

Betula:f.<l.:古代ラテン名。カバノキに対するケルト語の呼び名betuに基づく(2)

Betulaの語源には異説もあります(9)。
・「打つ」という意味のラテン語beteuereに由来する。
・ラテン語のカバの棒betuに由来する。
古代ローマではカバの棒を使って罪人を打ったということですが、このことからある伝説も生まれています。ヨーロッパには潅木にしかならないカバの種類があるが、このカバからつくった棒でキリストを打ったために、この種類のカバはいつまでも矮性で直立した形になれない、というものです。

maximowicziana:ロシアの分類学者で東亜の植物を扱ったマキシモヴィチの(2)

アイヌ語名の由来

シタッニsi-tat-ni(本当の樺皮がとれる木)(4)
参考文献に「知里真志保著作集 別巻I 分類アイヌ語辞典 植物編・動物編:知里真志保 平凡社 1976」とあるので、原典はそちらだと思います。
「カリンバ」はエゾヤマザクラ、「カリンバット」はシラカンバのことだそうです(1)。なにがしか樹皮に関係する名前なのだろうという推測はできます。

利用

ピアノの弦をたたくハンマー用の最良材(8)。

性質

山火事の跡に純林を形成するが、隣の個体と樹冠が接触すると一方が枯死していくという不思議な特性があり、種間関係よりも種内関係が厳しい種である(8)。

□おまけ-その1

〔マカバとメジロカンバ〕

ウダイカンバは、林業ではマカンバとメジロカンバに分けることがあります。心材が大きく赤みがかったものをマカンバ、これに対して心材が小さいものをメジロカンバと呼びます(5)。分類学的には区別されていません。かつてマカンバはメジロカンバの1.4倍ほどの値段で取引されたそうですが、消費者の嗜好の変化もありメジロカンバの価格も高くなったといいます(6)。

マカバとメジロカンバ、並べた写真を樹木医の真田勝さんにご提供いただきました。なるほど、こうやって丸太にすると上の説明がよくわかります。プロは、これらの違いを樹皮で見分けるのだそうですが、私にはちょっと…。実は樹皮の写真もいただいているのですが、解説を加えないと難しそうなので、後日お話を伺ってから補足したいと思っています。

東大富良野演習林に見学に行ったときに、エゾマツ造林地にウダイカンバが天然更新したために、除伐の際にどちらを切った方がいいものか悩んでしまう、という話を聞いたことがあります。材価はエゾマツよりもウダイカンバの方がずっと高いんですって。

マカバとメジロカンバ

□おまけ-その2

〔カンバ類の香り〕
カバノキ属の樹木は開葉時によい香りを発散させるそうです。私はこれまで気がつきませんでした。みなさんはいかがでした?渡邊定元先生の文章をそのまま引用します。以下のように書いてありました。

「香りの成分は花の香りの成分と同じなので、林のなかにいながら花園にたたずむ気分にひたれる。ちょっと人を興奮させる成分も含まれているから、うきうきした気分にもなれる。この冬芽の香りは種ごとに成分組成が少しずつ異なり、それを手がかりに種が判別できる。カバノキ属の植物は風で花粉が飛ばされて交配するが、他個体の花粉だけが受精する自家不和合性である。そのため、カバノキ集団は花期を同調させなければならない。植物はある一定の気温になると花が開くメカニズムをもっているが、香りは、集団内の一斉開花・開葉をより確実にする引き金の役割を担っている可能性が考えられる。
……。
ウダイカンバの冬芽の香り成分にはサリチル酸メチルのほか、ベンズアルデヒド、オイゲノールなどの抗菌物質が含まれ、病害を防いでいる。カモシカやニホンジカなどがとくにウダイカンバのシュートを好んで食べるのはこの薬用効果のためと思われる。」 (8)

□おまけ-その3

ウダイカンバの和名の由来を調べていたところ、北海道立林産試験場で「道産木材データベース」を発行していることがわかりました。「林産試験場だより」にほぼ毎月のように載っています。利用や強度など、ちょっと異なる視点から整理されているのでおもしろいです。ぜひ、ご覧ください。

http://www.fpri.asahikawa.hokkaido.jp/

□おまけ-その4

今回引用文献で使用した「日本樹木誌1」は、今年(2009年)7月に発行されたものです。これまでの図鑑類は主に形態的な情報にとどまっていましたが、この本では生活史も含めた総合的な理解を深めるために編纂しているということです。今回のウダイカンバに関する記載も45ページにわたり、さらにこのほかに引用文献だけでも10ページあります。第1巻では31種類の樹木です。続巻の発行が楽しみです。

発行元 林業調査会 http://www.j-fic.com

日本樹木誌1 http://www.j-fic.com/bd/isbn978-4-88965-192-8.html

〔参考文献〕--------------------------------------------------
(1)川村正一 編,2005,アイヌ語の動植物探集,268pp,文泉堂
(2)牧野富太郎,1981,牧野新日本植物図鑑,1060pp,北隆館
(3)GKZ植物事典 ウダイカンバの項
http://www.t-webcity.com/~plantdan/mokuhon/syousai/agyou/u/udaikannba.html
(4)北海道立林産試験場,2008,道産木材データベース「シラカンバ・ダケカンバ・ウダイカンバ」,林産試だより2008年12月,
http://www.fpri.asahikawa.hokkaido.jp/dayori/0812/4.htm
(5)佐藤真由美,1992,外材と道産材 -材質による比較(広葉樹・散孔材)-,林産試だより,1992年7月号,1-9,北海道立林産試験場
(6)長谷川幹夫,2009,ウダイカンバ,日本樹木誌編集委員会,2009,日本樹木誌1,105-160,760pp,日本林業調査会
(7)深津 正,1985,植物和名語源新考,244pp,八坂書房
(8) 渡邊定元,1995,カバノキ科 週刊朝日百科 植物の世界88,8,98-104,朝日新聞社
(9)上原敬二,1961,樹木大図説1,1300pp,有明書房